Araya Piano Studio       あぐらdeピアノ  「ピアノ教師、保護者そして生徒へのメッセージ − アメリカに学ぶ」    終章      新谷有功 著

 

 終章

  
皆のために
(For Everyone) 
 
 
 
悪質なピアノ教室
 
 ここでは、私が実際に見たり聞いたりした、悪質なピアノ教室の例をご紹介します。
 
 例1  学生の時、アメリカ人の女子学生が電話をかけてきました。「クレメンティのソナチネを一楽章弾いて録音して欲しい。」というのです。 
 その学生もピアノ専攻の学生でしたので私は「そんなの自分でやったら?」と言いました。彼女は、「昼食をおごるからお願い。」と言いましたので私は「それでは引き受けましょう。」と言って、ものの数分でテープを作ってしまいました。
 こんなに簡単なことやって、ただで昼食とは儲かりました。
 あとで事情を聞きますと、彼女はダラスのあるピアノ教室に仕事を求めていました。そこの教室はアメリカの伝統的なメソッドではなく外国から入ってきたメソッドを使う所でした。その仕事を申し込むにあたって、テープに録音したソナチネが必要だったのでした。
 彼女は応募にパスし、その後数年そこでピアノ教師をやったのでした。
 この教室では、教師の求人のために提出されたテープが本人の物とは確認していませんでした。ただ事務的に録音テープを出しておけば良かっただけで、それは誰の演奏かは全く関係無かったのです。
 
 例2  残念ながら次も、アメリカの伝統的なメソッドではなく外国から入ってきたメソッドを使う教室の話です。
 そこはダラスで楽器を売っている大きなお店でした。友人がその店でピアノ教師をやっていたものですからその話を聞くことができました。
 そこにはピアノ教師が何人かおりました。その中にはボスがいてピアノ教師の監督していました。
 そのボス曰く「生徒はお客様。易しく、簡単に教えなさい。厳しく教えてはいけない。生徒の上達はあまり関係ない。どんな教え方をしても、どうせ親にはわからない。とにかく易しく丁寧に子どもの相手をしていれば良い。お客様はお金を持ってくる人です。お客様に逆らったりしてはいけません。あまり厳しく教えるとお客様がレッスンを止めてしまいます。お客様を大切にしましょう。」
 
 例3  次は、アメリカの伝統的なメソッドを使っている人で、全米音楽教師協会の会員でもあります。この人がレッスンのための一時間をどう使っているかといいますと、
 
1 レッスンが5分遅れてはじまる。
2 レッスン中、かかってきた電話に出て20分間話す。
3 予定より10分早くレッスンが終わる。
 
 例4  自宅の一階でレッスンをやっていたピアノ教師が親子げんかをし、十代の娘が二階でガンガンステレオをかけたので、レッスンにならなかった。
 
 例5  経済的な理由からピアノ教師がベビーシッターを雇うことができず。自分の赤ん坊を抱いたままレッスンをやっていた。
 
 例6  ラジオの野球中継をイヤホンで聴きながらレッスンをやっているピアノ教師がいた。
 
 例7  生徒を自分のヒザの上に乗せてレッスンをやっている教師がいた。
 
 保護者や生徒の皆さん、こんなピアノ教室が実在するのです。気をつけましょう。
 
 
保護者への手紙
 
 ピアノ教師は生徒だけではなく、その保護者に対しても指導をしなければなりません。
 保護者はその子どものために、プロのピアノ教師を頼っています。保護者にも、誠意を持って対応し、保護者がどうあるべきかの指導をすることが大切です。
 アメリカで使っていた私のホームページの中に、「保護者への手紙」というセクションがあります。保護者へのアドバイスを書いたものです。これは私の生徒が大学生の時、卒業論文の参考文献としたものでもあります。その一部の参考になりそうな物を日本語に翻訳しましたのでご覧下さい。
 
 
 子どもの学習は普通、保護者の直接的な介入によって成功します。音楽教育のバックグラウンドがあろうがなかろうが、全ての保護者はピアノ教師と一緒に、子どものレッスンが肯定的な経験となるために努力することができます。 
 
 あなたの子どものレッスンには、正しい時期に正しいテキストを与える事が、成功のための初めのステップです。
 
 子どもが頑張ったということを熱意をこめて表現することが、生徒の継続的な上達のための強い刺激になります。
 
 レッスンがうまくうまくいったかどうかを子どもと話し合い、週に一度は自分が聴衆となり、子どもの上達に関して興味があるということを継続的に示し、一貫した練習の重要性を強調しましょう。
 
 教師から指示されたレッスン内容をサポートしたり、発表会に協力することによって、音楽や音楽のトレーニングに対するあなたの感謝の気持ちを表現することができます。
 
 家庭での練習時間を設定することは、レッスンを受けることの意味を深める上で重要なことです。ピアノの練習を大切なものと位置づけなければ恐らくレッスンはうまく行かないでしょう。
 
 練習時間は家族で話し合って決めましょう。そしてあまり例外を作らずにその時間を守るよう努めましょう。ある生徒は朝に練習効率が上がるでしょうし、別な生徒は午後かも知れません。自分の子どもに対するあなたの知識と理解をもとに練習時間を設定しましょう。
 
 宿題帳に興味を持ちましょう。宿題の意味を理解していない場合、子どもは、しばしばそれを無視します。そのようなときには教師にお知らせ下さい。
 
 ピアノは定期的に調律して貰いましょう。出来れば、子どもが練習に集中できそうな所にピアノを置きましょう。 
 
 
教師や辞書を信用するか
 
 アメリカの大学で、音楽理論の授業中、次のような事を教わりました。
 
「教師の言うことを信用するな。教師は所詮人間だ。その代わり自分で勉強して、その教師の言っていることが本当かどうかを検証せよ。
 辞書に書いてあることを信用するな。辞書を書いたのは所詮人間だ。その代わり自分で勉強して、その辞書に書いてあることが本当かどうかを検証せよ。」
 
 これは、恐らく大学生向けの提言だと私は受け止めています。頭ごなしに教師を疑ってかかればレッスンは成り立ちません。
 バノウェッツ先生は、私の呈するありとあらゆる質問に対し、常に冷静沈着に、筋道立てて説明して下さいました。ご自分の主義主張を押しつけるような事は一切無く、むしろ正しい勉強を促して下さいました。
 そして図書館で勉強したり、実際にCDを聴いてみた結果、常に「やっぱり先生の言っていることは正しかった」と思うものでした。それが、彼の元で14年もの間、ピアノを学ぶ結果となったのだと思っています。
 音楽に関する辞書はたくさん出版されています。全部買っていたら破産してしまいそうな金額ですが、各地の音楽図書館に行けば、多数の辞書がありますので、一寸の時間を使って比較してみてはいかがでしょうか。
 ひとつの言葉を別な辞書で調べてみるのです。例えば「スタッカート」という言葉を一つ取っても辞書によってその説明が全然違います。しかし、その中で、教師も保護者も生徒も、きっと何か勉強になることが発見できると思います。
 
皆のために
 
 良いピアノ教室を作ることは、保護者にとっても、教師にとっても、そして何よりも生徒にとって大切なことだと思います。
 皆が努力して良い教室作りをすれば、それはどんなにすばらしいことでしょう。
 
 私が日本の音大に通っていた頃、「ピアノ教育法」という学問は日本には存在しませんでした。その日本で、〇〇音大ピアノ専攻卒という学歴を持っていれば、立派な演奏が出来るかもしれませんが、その人が必ずしも良いピアノ教師だというわけではありません。
 では、保護者や生徒の側から見れば、良い教師を見つけるのにはどうしたらいいのでしょうか。
 教師、保護者、生徒、すべてに私が勧めるのは、インターネットを開き、「良いピアノ教師の探し方」を検索することです。
 これらのサイトは本来、教師をさがしている生徒のためのものなのですが、見方によれば、随分教師のためにもなるものです。例えば、「良い教師の条件」みたいなものがあれば、教師はそこから教師とはどうあるべきかを学ぶことができます。
 良いピアノ教師になるためには、有名大学を出ていなくても良いと思います。横文字の先生の名前がズラーッと並んでいなくても良いと思います。さらにピアノ専攻でなくても良いと思います。
 教師自身が良い教師になろうとたゆまぬ努力を続け、その教師なりの結果を出し、保護者も生徒も満足できるレッスン内容であれば良いと思います。生徒がチャイコフスキーの協奏曲でも弾くようになったら、他の先生にお願いすれば良いではありませんか。
 一方、良いピアノ教室を探している保護者や生徒にも、ある程度の勉強はして頂きたいと思います。
 本や雑誌或いはインターネットがあるのですから、ピアノ教室の門を叩く前に、教師に対して何を質問するべきかを用意しておきたいものです。その教師が、生徒にとって最もふさわしい人物であるかどうかを見極めるためです。そしてその質問をどんどんピアノ教師にぶつけてみるのです。
 無能な教師は怒りだすでしょう。有能な教師はすでに答えの準備ができているでしょう。
 もし教師自身が行き詰まったら無理せず、ベテランの先生にお願いしてみてはいががでしょうか。ベテランの先生方は教室が一杯だからといって門前払いせず、他の先生を紹介していただきたいと思います。

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